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コラム|介護業界のAI化に必要なこと(2)

今回は前回の続きのコラムです。


3.科学的介護に必要なデータ


「科学的介護に必要なデータ種別」についての詳述はここでは割愛しますが、一例として、誰もが理解しやすい「脈拍」についてお話してみます。

今までの介護記録では、取得したとしても「点過程データ」でした。さらに簡単に言うと、事象の発生を、発生した時刻とともに記録したデータです。「朝8時、田中さんの心拍数●●」というものです。

一方、BPSDを予測するために必要な脈拍データは、「時系列データ」です。常時、高齢者の脈拍を取得しながら、BPSD発症のトリガーを判定します。

脈拍という1つのデータだけ見ても、「ただ取得すれば良い」というわけではないことが分かると思います。しかも、様々なデータを取得しつつ、すべてのデータ時系列を揃え、AIに取り込む必要があります。ツギハギでは上手く行きません。実際にAIを動かすためには、下図のように、長期間データから適宜BPSD情報を分析し、統計的に考察するSQC(Statistical Quality Control)分析やバッチトレンド比較をリアルタイムで実行する必要がありました。図の中の◯は脈拍とBPSD発症(ある特定のBPSD)をプロットして示したものです。

脈拍1つだけ取っても、人間が処理しきれない分析や統計を実行させています。

つまり、本当の意味で科学的介護を実践するためには、現在のデータ取得の目的・在り方を変える必要があり、ケアテック企業は「科学的介護に必要なデータ」に合わせて介護記録システムを柔軟に変更し、かつ、最新のAIとAPI連携させる必要が出てきます。

「科学的介護は必要ない、今のままでいい」と言ってしまえばそれまでなのですが、日本の介護の未来を考えた時に、果たしてそれで良いのでしょうか。私が声を大にして言いたいのは、「介護業界こそ、他の業界に先んじてAI化すべき」ということです。業界が一丸となって変えていかなければ、日本の介護は変わりませんし、負担が増すばかりです。

「未来の介護」の本質は、ここにあります。

 


4.対処ケアから予防ケアへ


科学的介護に必要なデータの取得方法や種別が変われば、自ずとそのデータを取得するデバイスや介護者の業務内容も変わります。

ただ、介護施設をIoT化すれば良いか…という単純な話でもありません。今までの介護は、眼の前で起きてきたこと(BPSD)に対処する「対処法」がメインでした。もちろん、過去の経験と知識から予防的なケアを実践されている施設も知っていますが、対処法がメインだということに変わりはありません。

AIのチカラを活用することで、BPSD発症を「予測・予防」し介護負担を劇的に減らすことを目的とする場合、業務設計をガラリと変える必要が出てきます。対処メインの業務から、予防メインの業務への働き方改革です。例えばDeCaAIの実証実験では、BPSDの発症を70%も抑制することが分かっています。これは介護者にとって良いことですし、認知症の方にとってもより自分らしく生きるために重要なことです

介護事業者が、2025年問題を解決し明るい未来の介護に繋げるために、まず業務設計の変革に着手することが重要です。同時に、ケアテック企業は、API連携により「予測・予防」に関する機能を介護事業者に提供することが求められます。結果、認知症介護におけるPerson-Centered Careが実現します。

2025年問題がこれから顕在化していく中で、介護業界に必要なものは一体何でしょうか。AIを中心としたDXを実現しなければ、日本は財政状況の悪化・介護環境の悪化が進み、社会保障制度の存在自体が危うい状況に陥るはずです。

 

話:ゲオム株式会社・矢沢

(続く)

 

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